デンマークの福祉分野のご視察をご検討されていらっしゃる方のご参考に、お客様から賜りましたご報告書を記載させていただきます

デンマークの福祉分野のご視察をご検討されていらっしゃる方のご参考に、お客様から賜りましたご報告書を記載させていただきます

(日本で精神保健ご専門のソーシャルワーカーをしていらっしゃる◇様が、デンマークの精神保健分野をご視察下さり、日本の各所でご紹介下さいました。そのご報告書を◇様のご許可のもとに、こちらに記させていただきます。今後デンマークにてご研究などのご視察を検討されていらっしゃる方、またはデンマークの福祉政策などにご興味のある方は、下記何卒ご高覧下さい。◇様、デンマークにいらして下さいまして、またご視察のご手配と同行通訳をさせて下さいまして、誠にありがとうございました)

「デンマークの精神保健分野を訪問して」

   今回は、私がこの夏に見学に行ったデンマークの精神保健分野について書かせていただきます。「ここに書いてあること=デンマークの現状の全て」というわけではなく、あくまでも私が体験した内容でしかならないため、その点をご承知おきいただき読んでもらえれば嬉しく思います。

【なぜデンマークへ】
 「そもそもなぜデンマークへ?」と思われる方が多いと思います。その理由についてお話させてもらいます。私は大学生の時に2度、福祉研修でデンマークへ訪れました。その時は、高齢者施設や障がいを持った子ども達が通う学校、森の幼稚園へ訪問しました。学生時代の私が感じたことは、「税金で福祉が賄われていて、残業もなく家族と時間が過ごせるのはいいな~。時間がゆったり流れていて穏やかな雰囲気。」ということでした。デンマークのあたたかい雰囲気がとても心地よく、いつかこの国で生活してみたいと感じました。大学卒業後、精神保健福祉士として働くなかで「そういえば、デンマークの精神科関係は見学に行かなかったな。どうなっているのだろう。残業なしで仕事は回っているのだろうか。」という疑問を数年持ちつづけ、今回デンマークへ飛ぶことになりました。

【デンマークについて】
 よく言われることは、「デンマークってどこ?」ということです(笑)ですので、簡単にご紹介させてもらいます。デンマークは、ドイツなどが位置するヨーロッパ諸国とノルウェー・スウェーデンなどの北欧諸国との間に位置します。北欧と呼ばれる国の1つです。有名なのは『人魚姫』『マッチ売りの少女』で知られる、ハンス・クリスチャン・アンデルセンが生まれ育った国。ビールがお好きな方は、緑色が印象的な『Carlsberg』でピンとくるかもしれません。国土面積は約4,3万?で九州とほぼ同じ位。人口は約562万人で、神奈川県で比較すると横浜・川崎市・藤沢市を足した人口である。少しはイメージしていただけましたでしょうか。

【訪問先について】
 8月6日~8日の3日間、デンマークの首都コペンハーゲン市の各場所へ訪問をさせていただきました。下記に詳細を記します。

 8月6日(1日目) ① 首都地域 精神医療センター コペンハーゲン(精神医療センター外来):精神科医のトーマス氏よりセンターの概要を伺う。その後、ソーシャルワーカーの方からも仕事内容を伺う。

【機能】県の管轄。病院から退院した方が通うセンターで、入院病床はなく、外来、訪問治療、個人セラピー、グループセラピー(料理を作る、人と話す、社会的技能を身につけるなど)、市役所へのコンタクトを行っており、日本で言う精神科クリニックと精神科デイケアが組み合わさった所をイメージした。

【患者】患者数800名(統合失調症、うつ病、人格障害、アルコール中毒、薬物中毒など)。

【スタッフ】精神科医5名、看護師4名、ソーシャルワーカー4名、作業療法士4名、心理士3名の計35名とのことで、スタッフの多さから手厚さを感じた。基準は高い方とのことだが、各スタッフ1人に1部屋~0.5部屋が備わっている。

② コペンハーゲン市 リハビリテーションセンター:スタッフの方から概要を伺う。

【機能】市の管轄。通所型のセンター。4部門に分かれている。A)役割を願っている人に向けて、安心して働くことができる場の提供。B)休学中の学生に向けて安心して勉強する場、一緒に作業する場の提供。C)18歳~25歳に向けて、枠組みのある日常生活を送る場、共に出かけたり作業する場の提供。D)16歳~25歳に向けて3年の教育を提供。

【対象者】18歳~60歳の方で、診断がなくても通えるが心理的に問題がある人が対象。市役所、精神医療センターからの紹介とインターネットの情報を見て来所。

 8月7日(2日目)

③ コペンハーゲン市 社会福祉局 センターノアブロ地区:スタッフの方から概要を伺い、提供しているランチをご一緒する。

【機能】市の管轄。住居(ケア付き)と食事の提供。24時間体制。

【対象者】高齢者の階が3フロア、18歳~25歳の階1フロアある。ケア付きなので、状態が軽い方よりは重めの方が暮らしている。現在102名が入居。イメージしたのは、グループホームのアパートバージョン。見学中快く了承していただき、お一人のお部屋に入らせていただく。部屋は、キッチン、バス・トイレ、リビング、ベッドルーム。本が好きな方で、本もたくさん置けるスペースがある。

④ コペンハーゲン市 リハビリテーションセンター Amadeus:スタッフの方から概要を伺う。

【機能】市の管轄ではなく、市から補助を受けている独立組織(おそらく法人のようなもの)。低価格で昼食の提供。生活のアドバイス、やりたい事の話、クリエイティブ(編み物、音楽、スポーツなど)を行うことを通して自尊心を高める。

【利用者状況】精神疾患のある人(4割)、アルコール中毒の人(3割)、薬物中毒の人(3割)。平均年齢50代後半。障害年金、生活保護受給者で単身生活者が多い。近くに公的住居がありそこに移り住んできた人や他の地域から紹介された人が利用している。3割女性、7割男性。全体の3割は、家族がいなかったり家族との連絡は絶っている人。誰でも自由に匿名で利用可能。生活支援センターと似ている。

⑤ コペンハーゲン市 リハビリテーションセンター Pegasus:スタッフの方から概要を伺う。

【機能】④と同じ組織が運営。低価格で昼食の提供。週1日夕食作り。マッサージの提供。話をすることがメインの場所。時に釣りや森に遠足に希望者で遠足に出かけることもある。

【利用者状況】ほとんどが年金生活者で精神的な問題を抱えている人。アルコール中毒の人はいない。平均年齢45歳位。94歳になる人もいる。アクティブな高齢者で精神障害はない人も来所しており、ポジティブなエネルギーを分け与えてくれる。

 8月7日(3日目)

⑥ コペンハーゲン市 リハビリテーションセンター Milepaelen:スタッフの方から概要を伺い、提供しているランチをご一緒する。

【機能】精神疾患のある人々が、市または県に「自分たちの居場所がない」と話をしたことが始まり。社会省の大臣が予算と人を確保し、5.5年前に開所した。昼食と夕食(週1日)を低価格で提供。活動(キッチン、カフェ、IT・音楽、中庭)やアクティビティ(縫い物、編み物、コンピューター、絵画、ライトセラピーなど)を行っている。その他に、ボランティア、キッチンの仕事、委員会、居場所の機能がある。利用者は始め受け身的な傾向のため、スタッフは自己決定を意識して促している。年に1度旅行へ。

【利用者状況】1日22~40名。6割が女性、4割が男性。統合失調症、うつ病、双極性障害、人格障害の人が主。年齢は40~50代が多い。市や外来の先生に紹介されて訪れる。

【スタッフ】施設長、コック、ペタゴー4名、音楽家の計7名。

⑦ ノアブロ地区の見学:ウィンザーさんに移民が多いとのことで気になっていたノアブロ地区を案内してもらう。

【感想】
 3日間、デンマークの精神医療センターはじめリハビリテーションセンターを訪問させていただき、日本との相違点と共通点が明らかになりました。相違点は、入院も外来も、また薬も入院の場合には全額、また処方箋を書いてもらって薬局で購入する場合には一部公費ということです。そのシステムにより大きく日本と違う点は、入院期間が最短期間なのと薬の量が最小限という点です。デンマークでは15年~20年前には既に、精神科病院に長期入院者はいなかったということでした。しかし、入院期間が短い故に退院した人が体調崩し再入院というケースもあることも伺いました。また、精神疾患の大人が家族と同居していることはほぼないということでした。それはデンマークの風潮と言えますが、デンマークでは18歳になると成人とみなし、家から出て生活します。たとえ病気を患ったとしても、心配はしても「国が保障してくれる」という考えがあるということです。家族心理教育に関心を持っている私からすると、考えの違いに驚きました。共通点についてですが、特に感じたことは、訪問先のどの方からも「リソース」という言葉を伺ったことです。その方のやりたい事、希望、強みを大切にしながら関わっていくことは、日本もデンマークも同じだと実感し、それが嬉しく思いました。そして、学んだことは「声に出すことの大切さ」です。最後に訪問させていただいたMilepaelenは、当事者の声が形になった場所でした。余談ですが、総合病院の看護師がストライキを起こし、その後制度が変わったという話も伺いました。デンマークという国が、国民の声に耳を傾けてくれる国なのかもしれませんが、やはり思っているだけでは変化に繋がりにくいと思うので、まずは声に出すことが大切なのだと感じました。それはもちろん、私自身に向けて思うことでした。 最後になりますが、デンマークではどの訪問先の方も、どこの誰かよくわからない日本人の私を、仕事の時間を割いて親切、丁寧に対応していただいたことに感謝の気持ちでいっぱいです。そして、今回このような体験記を自由に書かせていただき、ありがとうございました。お読みいただいた方に御礼申し上げます。

【ご参考までに…】
今後、海外への見学・視察を考えている方に向けて参考までに書かせていただきます。こちらも、私の経験によるものということをご承知おきください。

・個人と団体ツアーのメリットデメリット
 団体ツアーの方が、料金ははるかにお手頃になるかもしれません。個人で行くことのメリットは、今回のようにランチをご一緒できたり、自分の希望でプランが立てられ、説明時間も比較的余裕があり、質問もいつでもできたことです。

・通訳のこと
 デンマークはデンマーク語なので、コーディネーターさんに訪問場所の手続きと通訳をお願いしました。相談段階から当日までとても親切にしていただき、この方がいらっしゃらなければ今回の体験はなかったです。安心・信頼できるコーディネーターの方を見つけられることをお勧めします。また、場合によっては、精神科関係の用語を事前にお伝えして現地語に訳しておいてもらうと良いと思います。

・期間のこと
デンマークは7~8月は夏休み期間のため、基本的に訪問の受け入れはしていない状況でした。その国の情報を早めに得られると良いと思います。(私の場合、訪問できたのは本当に良心的なコーディネーターさんのお陰だと思っています。)

・積極的な姿勢
 説明を受けて、通訳してもらって、質問して、と意外に時間が経つのが早かったです。質問などは、遠慮せずどんどんした方がより充実した時間が過ごせると思います。

(デンマークの精神医療の現場をご視察いただきました、精神医療の分野でソーシャルワーカーをされている◇様)

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